■Happy End #1 Escape

私は生まれてこの方生きていたことがない。
別に何に不自由しているわけでもないし、あと一年の命だとかそういった制約もない。

ただ私は……私の意志を通すことができないだけ。
この世に私が生まれてから17年。
私の人生は常に誰かにコントロールされ続けていた。

幼稚園の頃、私と仲の良かった女の子。
今でも私が完全に心を開くことができた唯一の人間。
「一緒に小学校に通えたらいいね」そう約束したのに……

気付いた頃には私は私立の小学校に入れられていた。

「私」はここにいる、でも「私」じゃない。
ここにいる「私」は大企業の社長の娘という名の操り人形。

それから私は人と話すのをやめた。
話したくなかったから。 仲良くなっても別れが辛くなるだけだから。

小さい頃の夢なんてすっかり忘れてしまった。
私には「社長の娘」という肩書きが付いただけ。

私だって、こんな生き方はしたくない。
友達と遊びたいし、カラオケだって行きたいし、恋もしたい。

自分が不幸だとは思っていない。
ただ、神様が私に与えたチャンスが少なすぎただけ。

だから、私にもほんの少しだけ、チャンスがあれば……



窓の外を眺める。
もう考えるのはやめにしたかった。
それなのに……その人はそこにいた。

歩道に佇む男性。
名前は分からない。
身長も高いとしか分からない。
髪は黒くて、どこか不思議なオーラを漂わせてる……
そして、地上3階からでもその存在を知ることができる……



私の心は彼に飲み込まれてしまいそうになった。
きっと、これが、恋。

私は授業も放り出し、すばやく階段を下りていった。
久しぶり、この感じ。
こんなに気持ちのいい気分、最後に味わったのはいつだろう?


私が歩道に着いたとき、彼はもうどこかへ行ってしまっていた。