■記録者のノート   #0 Note Down The Villain



まずここは日本ではない。

一応その事を初めに言っておこう。


日本列島からもアメリカ大陸からも遠く離れた太平洋上にある小さな島。

世界中ありとあらゆる国から人間がやってきてはここに住む。

悪党共がな。

しかし、世界からは存在を認められていない。 そんな島だ。

もう一つ、この島に済んでいるのは全員かなりの悪党だという事を覚えておいて欲しい。

強盗犯、殺人鬼、詐欺師、テロリスト、殺し屋 etc...


まぁ、何が言いたいかってぇとこの島は「悪党共の最終目的地」だって事だ。




さて、この島はまるで70年代だ。

電気は通ってるがパソコンも無ければ携帯電話も無い。

テレビはあるが国営放送局がない。 そもそも国ではないしな。 みんな勝手に放送してる。 ラジオも同じだ。

電話はある。 この電話がこの島の中で最も安定したネットワークだ。



この島に住む人間は誰もが働いている。

……それが善人としての職業か、俗に言う「悪行」か。そんな事は関係ない。

この島に来る前にやっていた事は大体そのまま職業としても使える。

料理人、酒屋、殺し屋、淫売……こんな世界共通の職業は、もちろんこの島にもある。

確か3ブロック先の肉屋の店主は俺がこの島に来る前にテレビを賑わせていた連続幼女殺人犯だったな。

要は誰もが生きようと必死なだけだよ。



この島の人間には名前が無い。

本名を名乗る必要も無い。 この島に来るほどの奴は世界中でも有名人だったりするからな。

だからみんな偽名を使って暮らしてる。

前に食堂で会った奴……アイツには笑ったな。

「ジョニー」と名乗ったが、どう見ても日本人なんだよ。

まぁ、そんな風にしてみんな好きな名前で生きてる。



……さっき誰もが働いてると言ったが、アレは嘘だ。

俺は働いてない。 この島の中の色々な事をノートに纏めて勝手に楽しんでるだけだ。

事件の事、島に住む奴らの戸籍もどき、今日作られた死体の数……

でもな、こんな下らないノートでも見たくなる奴がいるらしい。

そういう奴からは遠慮なく金を受け取ってる。

数は少ないが、一回ごとの額は大きい。

だから決して貧乏ではない。

飯も食えるし、酒も飲める。 その気になれば女も抱ける。



そこでだ。 今までに俺が書き留めた事の中から、いくつかあんたに紹介したい。

目的? 決まってるだろ? あんたのその鞄に詰まってる金さ。