■記録者のノート #1 Killers' Morning (Poe&Russ)
これは、先月の末に俺が近所の店に牛乳を買いに行ったときの話だ……
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俺は、朝に近所の店……コンクリート建てのビルの一階に牛乳を買いに行ってた。
そのビルは俺が島にやってくるだいぶ前にイタリアのマフィアの連中がわざわざこの島にやってきて、大量に作って行った物らしい。
麻薬の倉庫にでもするつもりだったそうだが、ビルが完成する直前になってマフィアの連中が全員捕まって、結局無駄になったそうだ。
わざわざ建設機材まで持ち込んで作ったそのビルの残骸は数10軒。 今は全部店やら事務所やら、勝手に使われてる。
……でだ、牛乳を買って店を出ようとした時だよ。 上の階から銃声が聞こえたんだ。
別に珍しいことじゃないがね、気になったのさ。
俺は早起きな方なんだが、牛乳を買いに行ったのが6時頃だ。
普通こんな朝早くから銃撃戦は無いだろうと思ってな。
でも俺はとにかく朝飯が食いたかったから店を出たんだよ。
まさにその時。 上の階から降りてきた二人と鉢合わせた。
片方は俺よりも身長が大きかった。 右手には大型のナイフ、左手に小さな拳銃を持ったまま歩いてた。
そいつの目は異様に鋭く、口は半開き。 前髪が長くてヘルメットみたいな髪型だった。
あと、当然といえば当然だろうが、そいつの白いシャツは血まみれだった。
もう片方は俺よりも身長が小さかった。 奴の印象に残ったのは、その身長に似合わない銃だよ。
まるで象か戦車かヘリかターミネーターでも相手にするみたいな馬鹿でかい大砲さ。
奴も血まみれのシャツを着ているのかと思ったが、よく見たらただの赤いシャツだった。
その二人は俺には目もくれず歩きながら何か話してた。
俺ものどが渇いたからさっきの牛乳を飲みながらその話を聴いていた。
「なぁ」
「ん」
「今度から朝はヤメにしないか?」
「何で」
「だってさー……朝飯の前に血の海を見るのって何かアレだろ?」
「別に」
「わざわざ早朝の仕事を請ける必要がどこにあったんだ?」
「さぁ」
「今度から朝の仕事を請けるときは、客とは俺が交渉する」
「何で」
「朝っぱらから血の海を見てメシが不味くなったらどうだ? お前は慣れてるだろうけどな、俺は仕事の後はしばらくケチャップが食えねぇンだよ!
だからそういう意味での俺の精神的損害に対する手数料を取るんだよ。 お前と組んでもう2年になるがな、どうにもお前の考えが解せないな。
お前は楽しむ為に殺してる。 俺はメシを食う為に殺してる。 目的は違っても手段は一緒だ。 だが今度からは朝の仕事は極力断ってくれ。
このままじゃ体が持たない。 俺と仕事がしたいなら、朝の仕事は断るか手数料を上乗せするか、どっちかにしてくれ!」
「……」
「……ダンマリかよ。 何か返事してくれ、頼むから。」
「足元」
「あ? あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!????? 俺の靴にウンコがああああぁぁぁぁッ!!!!!!」
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……変な殺し屋だったよ。
チビは殺した人間のことよりも朝飯や自分の靴に付いたウンコの事を心配してる。
デカは殆ど喋らず、何に対しても二言しか返さない。 あと無表情だった。
後で分かったが、あの二人の殺し屋はポーとラスと言う有名なコンビらしい。
大きい方のポー。英語圏の名前だが当然偽名で、本国はイタリア。
15歳の時に恋人を政治家の車に轢き殺されてその恨みで政治家とその家族、警備員やメイド、計43人を射殺した殺人犯。
ちなみに身長は大きかったがまだ17歳だ。
小さい方のラス。アメリカ全土で重火器を使用した集団強盗を行い、総被害額4000万ドル。警官が28人死亡、59人が未だ意識不明。
仲間の裏切りに遭い一度は逮捕されるが、護送中に脱走。 客船に乗り込みこの島へやってきた。
こいつは小さかったが俺よりも年上だった。
この二人はちょうど同時期にこの島へやってきて、気付いたら組んで殺し屋稼業を始めてたそうだ。
人間のつながりってのはどこにあるか分からん。 よく知らない奴と気がついたら殺し屋になってた。 そんな事もここではあるのさ。
まぁ、いずれあいつらは殺人そのものに罪悪感は微塵も感じていないって事さ。
To be continued...